ライターズ・オフィス|ライターズ通信|十年以上前のこの一日をどう話せばすべらない話になるのかを日々考えずにはいられない

十年以上前のこの一日をどう話せばすべらない話になるのかを日々考えずにはいられない

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高校3年生の夏、K君という彼氏との一日。K君はMCとしてラップ活動もちょっとしている同い年のBBOYだった。

普段からBBOYな恰好や言動をしておきながら、本当は小心者の男の子だった。

 

一度一緒に歩いていてヤンキーに絡まれたことがある。

「おい。何見てんだよ。おい!」と肩を何度もど突かれたK君は、強張った表情のまま歩道の植木に無言でどんどん埋もれていった。

なんとか周りがおさめてヤンキーが立ち去ったあとに一言。

「…ふぅ。もう少し止め入るの遅かったらマジ手出るとこだったわ」

カッコつける前にまず周りに感謝しろと思った。

 

またある時はパチンコ屋の駐車場前で、いきなり出てきた原付と私が接触。

大したことではなかったので大丈夫ですよ、と運転手の小柄なおじさんに言いかけた瞬間

 

「テメー金出せコラァ!!!」

 

植木に埋もれていた人とは思えない俊敏さで恫喝し始めた。

いきなり金出せと叫ぶところに不慣れで浅はかな印象を受ける。

小心者の強がりほど見下した相手への対応がえげつないのだ。その場は私がなだめ、おじさんには帰ってもらった。

もちろん彼は後日、仲間にその日のことを満足げに話していた。

 

そんなK君と長続きするはずもなく、すぐに別れを考えるようになった。

その当時、私たちは放課後同じ飲食店でバイトをしていた。

ある日お店に行くと外にウサギが入った段ボールが置いてあった。貰い手を探しにスタッフが持ってきていたのだ。

ウサギと触れ合いたかった私は、バイト終了後に控室にウサギを連れて行こうとした。

そんな私を「中に入れちゃだめだろー」と止めるK君。しかしどうしても遊びたい私は強引にウサギを連れて行き戯れていた。

結局彼も最後には可愛いな、てへへ、と抱っこしたり一緒に遊んでいた。

 

その帰り道、私は別れ話を切り出した。

公園のベンチに座り、別れる別れないの長い堂々巡りの話し合いの中、不意に精神的にも疲弊し油断した私のお尻から可愛らしい音が。

―――よくこんな時にオナラできるなwww

 

 上から言うな小心者が。

これはもう別れ話どころではない。自分の不甲斐なさに夜空を見上げた。

ふと一つの輝く星に目がとまった。

何の気なしに見つめていると、その星がいきなり夜空の端から端までをありえないスピードで蛇行し始め、そのまま南の方向に瞬く間に消えて行った。ゆ、UFO…!?

思わず悲鳴をあげる私に驚きK君も悲鳴をあげる。

興奮しながら今見たことを説明し、消えて行った方向を二人で見上げて待ち構えていた。

五分ほどすると案の定同じ輝く物体が飛んできた。

途中で止まったかと思えばゆっくり円を描いたり、またとんでもない速さで動き回ったり、私たちにパフォーマンスしているかのようだった。確かにそれは紛れもなくUFOだった。

 

UFOを見送り不思議な一体感に包まれた二人は、なおさら別れ話どころではない。

ひとまず話し合いを後日に持越し帰路についた。

 

しばらく歩いていると何やら隣のK君の様子がおかしい。

ぐすん…目が…目が見えない!どうしよう…ふぇ…と涙を流しているではないか。

恐る恐る覗き見るとK君の黒目が白濁し、更にブヨブヨと熟したトマトのように目玉全体にしわが寄っている。

まさかUFOを見た呪いだろうか!?私もあたふたし、何が起こっているのか一から考えた。

何しろ今日は色々ありすぎた。UFOもそうだけど学校行ってバイトも行って別れ話して、そうだウサギとも遊んだなぁ可愛かったな……あ、ウサギ。

「K君もしかしてウサギ触ったから…?」

 

ハッとした表情のK君。

「―――そうだ…!ウサギのせいだ!……だからあの時ウサギと遊ぶなって言ったんだ!!!俺はウサギアレルギーなんだ!!!!治らなかったらどうしてくれんだよ!!!」

 

 ……アレルギーなんて聞いてねぇ~。そうなら最初から言え~~~。

嗚咽しながらキレる彼を見て、やはりこの人とは長続きしないと実感した夜だった。

 

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